2010年12月13日月曜日

萩原 健次郎さん



誌名「ヒマラヤ」(同人誌)

発行者  萩原健次郎(発行ごとに変わる予定)
(問い合わせ先)海埜今日子

創刊年月日 2009年10月25日
発行間隔 年2回から3回
最新号の発行日 2009年10月25日(創刊号)
最新号の執筆者 海埜今日子 太田潤
萩原健次郎 広瀬大志
(装幀・松尾エリ)


去年の今頃紹介させていただいたのですが、今回は誌の朗読抜粋しました。














萩原 健次郎





空疎小説



 空疎系へ、歩みだす。

空など眺めたこともない、無粋な悪漢。詩人、しどろ

もどろの、空疎系、垂直に、歩みだす。垂れている、

垂れている、言葉が、空疎、クーソ、クーソの素。ク

ーソの折り重なるボディ。



 そんなことを考えていたら、あるときは、肉の詰ま

った鳥が、空疎の容器に、数千羽おしこまれて、息も

できずスクラップ、キュービック状態にされる。



 サイコロのピンがでた日にゃ、片目が充血して、そ

れはそれは、言葉もない。



 空疎系は、悲しまない奴の、無色透明の息。ゼリー

の不気味な飴。グニョーと立体ブーメランのように太

った原色の、もっと甘い砂糖の膜でコーティングされ

た、あれ、あれ。



 塵の圏へ、あこがれを抱く少女は、空疎系の小箱を

抱えて移動する。「そんなものは、捨ててしまえ。そ

んなものは飲んでしまえ」。



     詩が、抑留される日は近い

     サイコロの六のでた日にゃ

     言葉がくろぐろと、うちな

     らび、標的みたいに。しか

     し、的は、どこでも当たり

     命中命中、また命中で、き

     りがない。やがては、きっ

     ちりぼんやりハレーション

     を起こして、こうなるのだ



     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中

     命中命中命中命中命中命中



 空疎系とは、こういうものだ。きょう、生きている

のは、土と草だけだ。それと、少女が小脇に大事そう

に抱えている、極小の塵の圏だけだ。そうだ、ポーチ

だけなのだ。ポーチの中に、息ひそませる、細菌は生

きている。生きている。確かだ。



 みんな手足があるだろうか。みんな血、流している

だろうか。みんな悲しくないのだろうか。戦闘と性交

と、抒情と隠喩と、空腹と、放漫と、巨乳と美乳と、



 少女の三つ編みは、塵だらけだけど、ポーチの中身

は、それはそれはかわいい。かわいい細菌が、お話し

てる。ゲームしている。



 空疎県空疎市空疎区空疎町空疎空の疎字空疎、の五

指、股、



 そのあたりから、攻めてくる異星人もいるだろう。

別の星には、空疎のない、サイコロの、●ひとつ。戦

闘と性交が、つまりは、抒情が、ごろごろ転がってい

たり、群れていたり、茂っていたりするだろう。別の

星だ、別の星。



 星の住所をたよりにして、ポーチひとつ肩にひっか

けて帰ってこない。



 クーソ、キュァーソ、キュアア、キュァァー、泣い

ている。泣いている。疎らな空から、その声が降って

きている。



 そういう夜は、辛い味噌汁にかぎると思うのは、私

だけだろうか。 







文屋